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製薬企業とアメリカ連邦議会 [海外の医療]

 毎週木曜日の深夜に放送されている番組で「CBSドキュメント」はアメリカの良質なドキュメント番組を流しています。

 

 先週のテーマのひとつは「製薬会社ロビーの影響力」というテーマでした。 具体的には、2003年1月に ブッシュ政権が提案した高齢者・障害者向け公的医療保険制度(メディケア)に関する改革法案は、上院および下院での審議を経た後、6月27日に両院を通過した。

 メディケアによる保険制度の改正によって、医薬品の支払いを政府が負担すると言う法案で、一見すると被保険者にとってみると、薬の支払いに悩む立場からすると、すばらしい法案のように思われます。

 しかし、これが大きく間違いでした。実はこの1000Pにもなる法案の原案は、製薬業界にとって好都合な条項がいれていたということです。 

 

 特に問題になったのは、連邦政府と製薬会社が薬価について値引き交渉を禁止するという項目が入っており、製薬企業にとってみると値上げは自由になったことです。

 

 監視団体が報告によれば、6割近い値段が高いという話。しかお、この1000pにも渡る議案が議会に届いたのは可決日の午前9時。その後、紛糾を重ね、通過したのは翌日の午前3時。

 通常は15分で可決されるという議題に、3時間以上もかかるという異例な経過で、議決の間、議案に反対の議員に対して、さまざまな圧力がかかり、賛成220票、反対215票の僅差で下院の最長記録で議題は可決されたということです。

 

 しかも、通過後当初は4000億ドルという予算であったのが、通過後2週間で6000億ドルに予算が膨れ上がったということで、「こんなことならば通過させなかった」と賛成に投票した議員の声が紹介されていました。

 

 その後、この議題に賛成を投じた議員や連邦議会の職員が、さまざまな形で製薬企業のロビーイストになったという話が紹介されていました。アメリカの共和党議員らにとって、議員を退職した後、連邦議会に業界からさまざまな形で働きかけるロビーイストというのは魅力的な仕事のようで、少なくとも15人が、業界側ロビーイストに変わったということでした。

 

 改正メディケア法案には1000名のロビーイストがさまざまな形で、議員に働きかけ、法案設立にかかわったとされています。

 

 問題となった連邦政府による値引き交渉禁止条項のために、結局、不利になったのは製薬企業の言うままの値段で薬剤費を支払うことになった連邦政府でした。

 

 監視団体の報告によれば、ある薬剤の価格を例にとると、退職軍人向けの病院では520ドルであるのに対して、メディケア病院では785ドルと約50%増し。ゾコールのような高脂肪血症薬も、退職軍人向けには127ドルで済むところが、メディケアが1485ドルになるなど、この法案により連邦政府は値引き交渉が不可能になるだけでなく、製薬企業の過剰な利潤を保障するだけでなく、財政的にも政府にとって数千億ドルの追加負担を強いられるような法案であったことが判明しました。

 

 結局、メディケアの改正法案により、製薬企業にとって都合のよい法案改正がなされ、しかも議案通過に貢献した多くの連邦議員やスタッフは厚遇で業界関連の仕事にありついたという事態を招きました。

 世界の製薬産業のマーケットシェアの1/2を占めるのはアメリカで、No2は日本です(ただし、日本のマーケットシェアは15年以上前に20%でしたが、今や日本のシェアは強力な政府による薬価抑制政策により10%に低下しています)

 

 いずれにせよ、製薬企業サイドに主導権を完全に与えてしまうアメリカのやり方がとてもベストとは思えないのですが、そのかわり新薬の大半がアメリカのマーケットシェアでいかに確保するのかが大きな問題になっているのは確かなようです。

 

 そして、アメリカでは相変わらず製薬企業の経済活動についてのレポートがのっていました。記事はBioToday.comさんからです。

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製薬会社3社が薬価を不当に水増しさせていたと連邦判事が判断した

 

2007-06-24 - マサチューセッツ州の連邦裁判所判事は、AstraZeneca(アストラゼネカ)社、Bristol-Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)社、Schering-Plough(シェリング・プラウ)社傘下のWarrick Pharmaceuticals社が、2003年までの様々な期間にアメリカでの薬価を不当に水増しさせていたという判断を下しました。

今回の集団訴訟で原告は、公表される平均卸売価格を3社が水増しさせていたと訴えていました。2003年まで、この平均卸売価格はメディケア、州政府、保険会社からの払い戻しの基準となっていました。

薬価が水増しされることで、医師や薬局の実際の費用と公表薬価の間に差(スプレッド)が生じます。このスプレッドが大きな薬剤を使えば、医師はスプレッドに応じて余分な金を得ることができます。製薬会社は、スプレッドを利用して、医師にとって魅力的になるように薬剤を仕立て上げていたのです。

連邦判事は、上記の3社は薬価を大幅に水増しさせて政府の高齢者向けメディケアプログラム、保険会社、患者に対して損害を与えたと判断しました。



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・ ビジネス  > トラブル  > 訴訟

‥> 関連ニュース
U.S. judge levies damages in drug pricing case / Reuters

 

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 世界の製薬企業のマーケットシェアの1/2を占めるのはアメリカで、No2は日本です(ただし、15年以上前が20%でしたが、今や日本のマーケットシェアは強力な政府による薬価抑制政策により10%に低下しています)

 業界側に価格主導権を完全に与えてしまうアメリカのやり方がとてもベストとは思えないのですが、新薬の大半がアメリカで開発されている現状からすると、イノベーションという意味では、政府の支援もある程度は必要なようです。ぽち→ 

 

参考出展:海外労働時報2003年9月

1 医療保険法(メディケア)改正案、両院を通過

 

参考文献:

ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実
マーシャ・エンジェル (著), 栗原 千絵子 (著), 斉尾 武郎 (著)
 これはアメリカ企業のマーケティングについて知るには最適の書物です。そして、実際にこの書物の内容と同じことをいまだに繰り返しているのが先ほどのご紹介した記事のとおりだということです。

 

新薬スタチンの発見―コレステロールに挑む
遠藤 章 (著)

 

 三共製薬で、日本発の高脂肪血症の薬の開発の苦闘ぶり、そしてアメリカの大手企業との提携で情報を提供するも、それを元にアメリカ大企業に開発のイニシアチブを握られ、他社を専攻させることになってしまった経過などがこれを読むとはっきりします。イノベーションジャパンためには、お金もさることながら、対等にアメリカ企業やグローバル企業とわたりあえるような、さまざまな支援が必要ですね。ぽち→ 


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