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医療の実態に驚く司法関係者・・・ [医療行政]

 Medical Tribuneという、医療関係者しか読まない媒体があります(たいてい医局の机の上やゴミ箱によくおちているものです)。その電子版にMTproというものがあります。たまたま、こんな記事があったので、ご紹介しておきます。

 ちなみに、技術が進歩しても、医療事故はゼロにはなりません。これは人が人間であるから必ずエラーは発生します。その原因を追究&再発防止のために必要な手段として調査は必要です、しかし現在の日本の場合「魔女狩り」のように個人の医師をターゲットとして責任を個人におしつける風潮があります。

 残念ですが、医療はとっても複雑なんです。○×式でセンター試験のようにクリアに判定つかなかったり、さまざまな要因(スタッフの知識、マンパワー、設備、患者さんの状態・・・)がからまっています。一人の患者さんを診る多忙な医師、また同時進行で他の患者さんを看る看護師さん・・・現場はもうすごいことになっています(特に救命救急などの現場では)。

 これに刑事罰を課すことが、現場にとってどれほどマイナスなのかは医療側は良く知ってます。では、お読みください。

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MTpro 2008年1月21日掲載

医療関係者の刑事訴追における多くの問題点

 医療と法律の関係が大きく変わる出来事が続発し,現場で働く医療関係者に混乱と困惑が広がっている。特に医療事故における刑事訴追件数の増加が医療現場に大きな影響を及ぼす要因の1つとなっている。1月19日,東京都で開かれた第13回日本脳神経外科救急学会で東京医科歯科大学(研究開発学分野)教授の高瀬浩造氏が,医療従事者の刑事訴追に対する理解と取るべき対応に関し,学会特別企画として講演を行った。

不明確な「過失」の定義

 高瀬氏によると,日本の医療事故に対する刑事訴追の最大の問題点は,民事と刑事の「過失」の定義には形式的な差がないばかりか,検察の運用によってのみ実質的な差が生じていることだという。

 これはすなわち,医療事故が起きた際に民事での主な争点となる「注意あるいは説明義務違反」と,医療事故に事件性があるかないかを争点とする刑事の「業務上過失傷害あるいは業務上過失致死」が法制度上の重みが同じと見なされているに等しく,「検察の判断いかんで,被告となった医療従事者は民事,刑事において同じスキームにより,二度罰せられることになる」と同氏は指摘。

有罪かどうかのみが争点に

 民事では医療事故の医療側の責任の有無と原告側の患者が受けた損害の因果関係について,双方の弁護士および裁判所の三者が審議を行うが,刑事訴追ではいったん起訴が決まれば,被告が有罪か否かが最大の争点となる。

 さらに,専門性・特殊性の高い知識を必要とする医療案件では,民事あるいは刑事を問わず多くの場合,裁判官や検察官らは医療関係者への参考聴取を行う。民事では,専門委員の発言内容は証拠としては採用されず,原告・被告双方の言い分を中心に裁判が進められるのに対し,刑事ではすべて検察官の判断において公判時の証拠として提示されるだけでなく,検察側が被告の有罪を主張するのに有利な証拠を重点的に集めることも考えられる。刑事訴追を受けた被告は,起訴された時点で弁護士を依頼し,その時点でようやく検察側の主張に相対することになる。

 これでは,医療事故が起きた背景や事情については,真に公平な視点で事実関係が明らかにされるとは言い難く,現行の法制度下で医療事故を刑事事件として取り扱う矛盾と言えそうだ。

患者や警察への初期対応は慎重に
 医療事故における刑事訴追増加の背景には,患者あるいはその関係者による警察への訴えが容易になったことに加え,警察あるいは検察側の,患者側の意見を特に重視する指向が強まっていることがある,と同氏は分析。しかし一方で,「患者の不信感が強い場合」と「医療機関側が当事者である医師を非難した場合」に患者側が医療行為の犯罪性を強く訴えることが多いことが明らかになっているとした。

 実際,同じような事案にもかかわらず,刑事訴追されるケースがある一方で,刑事事件として取り扱われないといった事態がいくつも起きているが,民事ですでに示談が成立している,あるいは患者側,医療機関側双方で合意が得られていれば刑事訴追の可能性は極めて低くなるとの報告もあるという。

 高瀬氏は医療事故における刑事訴追を見直すために,医療における事件性あるいは刑事上の過失の明確な定義を確立することをはじめ,検察側への医療に対する啓発活動の必要性,医療関係者の取り組むべき点を提言した(表1,2)。


 特に表2の「医療事故での守られるべき医療者」については「以前は,"医療従事者同士はすぐにかばいあう,助け合う"といった周囲の声に,われわれ自身が過敏に反応し,当事者の有利性に寄与するような証言はしにくいという風潮が見られたが,大部分のケースで医療従事者は患者を助けるため,日夜,懸命に医療を行ってきたことを忘れてはならない。そのためにも,医療機関側は,患者や警察への初期対応において,真摯な対応,協力を行うのはもちろんだが,当事者である医療従事者が"犯罪"に関与したかのような誤解を与える軽はずみな行為,言動はすべきでない」とした。

略式起訴は受けるべきでない

 また,同氏は医療事故訴訟における,略式起訴の実態にも言及した。現在,略式起訴は医療事故の刑事訴追の約半分を占めるまでになっている。その背景には,刑事司法制度改正による公判手続の簡略化による影響もあるようだが,決定のプロセスには「罰金を払えば解放される」と当事者があたかも免責されるかのような誤解を与える説明が行われる場合があったり,当事者が弁護士や法律に明るい医療関係者などの同席もなく一人で検察官と面談し,略式起訴を受け入れざるを得ない状況に自らを追い込んでいることなど多くの問題があるようだ。

 しかし,略式起訴の安易な受け入れは,特に医療事故においては検察側の一方的な尋問により「過失」が「罪状」として認定されることを意味し,医療事故における刑事訴追をさらに助長することにつながる。同氏は,「万が一,検察側から略式起訴を勧められても決して受けないように,と私ならアドバイスする」との見解を示した。

(坂口 恵)

 先ごろ第13回日本脳神経外科救急学会の特別企画において,医療関係者の刑事訴追における多くの問題点に関する講演が行われた(既報)。演者の東京医科歯科大学大学院(研究開発学分野)教授の高瀬浩造氏 注1は,「医療は一つの切り口で表現できるものではなく,常に包括的で総合的な認識を必要とするもの」との見地に立ち,医療者側の立場から医療と司法の相互理解推進に努めている。講演にあたっては,「刑事訴追の問題が医療従事者の熱意をいたずらに削ぐことがないような内容を心がけた」という同氏に,変わりゆく医療と法律の現状ならびに医療関係者が求められる対応について聞いた。


検事・判事補の医療機関研修・・・医療の実態に驚きの反応

―医療従事者として法曹界への関わりを持ったきっかけと現在の状況を教えてください。
 医療従事者として,あるいは医学教育を担当する者として,医学教育・医療制度・医療訴訟の改革は避けて通れないものと考えていました。法曹界との接点は6年ほど前に,東京地裁の民事医療集中部への協力を依頼されたことが契機で,現在は,大学病院として,法務省刑事局が行っている検事の医療機関研修も担当しています。これは先に始まっていた,司法研修所が大学病院で行っている判事補の医療機関研修での成果に基づき,私が法務省に要望し,実現したものです。
 具体的には,医療事故を担当している,あるいは担当することになる検事たちに,1週間にわたり大学病院で研修を受けてもらいます。研修内容は,見学・実習・講義・討論の4部で構成されており,検事たちに医療現場の実態を見てもらいながら,医療に携わる人たちの現実,価値観,意識を理解してもらうことを目標としています。この制度をきっかけに,検察と医療の間のコミュニケーションがよい形で進めばと思っています。

―実際の研修を終えた判事補・検事の方たちの反応はどういったものでしたか。
 ほとんどの感想は,「医療の現場がこのようなものだったとは知らなかった」というものです。それまでどのように思っていたのかについては,話したことはありませんが,おそらく医療が科学的に実行されていると考えていたのでしょう。
 さらに,判事補も検事も,自分たち同様に医療従事者の労働環境が劣悪なことに驚いているようです。また,診療における判断がきわめて困難なだけでなく,短時間での決断が求められること,医療が医療従事者の技術に大きく依存していることへの驚きや,患者への説明が予想以上に丁寧,といった反響があります。判事補の医療研修は,すでに6年ほどの実績があるので,研修に参加した先輩から事前に話を聞いているため,最近は以前ほどの驚きはないようですが,検事研修の場合は,それまでの医療に対する考え方が大きく変わったという声が多いです。
 いずれにせよ,医療研修制度が判事補および検事の医療に対する認識を少なからず変えることに貢献していることは事実です。私たちも,彼らとの接触で司法に対する認識を新たにしただけでなく,講演で話した刑事訴追における私の見解も,検事研修での議論により得られた部分が少なくありません。

―講演では医療事故が刑事事件として取り扱われることの危険性をお話しされていました。実際,法曹,特に司法関係者側は現在,こうした傾向をどのようにとらえられているのでしょうか。
 司法関係者のなかでも温度差があるように感じています。従来,関連事案を数多く担当してきた民事領域では,医療が持つ構造あるいは意識の特殊性がある程度は理解されてきたように思います。その一方で刑事では「法の下の平等」ということもあり,「医療だけを特別扱いはできない」という意識が強いように思います。しかし,医療をほかの領域と同様に扱うことによる弊害,特にリスクの高い医療行為が潜在的に犯罪となる可能性があるという医療側の認識は,医療を受ける国民にとっても,とんでもない損失となる危険性があります。

医療側の司法に対する認識の向上や働きかけも重要

―「医療事故で守られるべき医療者」について提言されていましたが,具体的取り組みとしてはどのようなことが考えられますか。
 医療機関によって,まだ格差はあるかと思いますが,医療水準の重要な要素としての安全管理についてはかなり啓発が進んでおり,意識も高まっていると思います。ただし,医療の評価ができる専門家はやはり医療従事者であるため,自分たちがどこまで評価できるのか,してよいのか,さらにはそれが社会と乖離していないのか,など問題は残っています。その一方で医療は,社会が医療に対して不信感を持っている以上に,社会に対して不信感を持ち始めています。
 このため,今後医療事故の公表制度あるいは第三者機関による事故調査などは,医療側の不信感が払拭されないと実効性あるいは実行性がないかも知れません。この医療側の不信感が「医療従事者の意識の崩壊」の本体ですので,この部分を解消できるような教育が肝要です。

―医療裁判上の問題として司法解剖および,参考人として選ばれる医療関係者の全体的なレベルアップが必要で,そのためには医療従事者側の司法に対する積極的な働きかけも重要と提言されていましたね。
 全国の医学部では法医学の専門家の絶対数が不足しています。このため司法解剖に十分な人的資源が投入できていません。診療現場でも人的資源の不足は重大な問題ですが,至るところで問題が起きているわけです。問題の唯一の解決法は,この問題を十分に認識するとともに,優秀な後継者の育成へとつなげる努力をすることです。
 以前の私もそうでしたが,医療関係者は全体的に制度としての法律に興味がありません。しかしそれでは問題は解決しませんので,法制度に関心を持ち,教育を受けることが必要です。東京地裁の医療集中部ではカンファレンス鑑定 注2とよばれる新しい鑑定方式を導入し,数多くの大学をはじめとする施設で働く医師を,鑑定人として裁判に関与させてきました。この鑑定経験者たちは医療訴訟に対して実体験としての理解をしており,その後それぞれの医療機関においても,重要な役割を演じています。これらの人材の中から,司法側への提言ができる専門家が生まれてくるものと期待しています。

(坂口 恵)

注1:高瀬 浩造 氏
 1980年,東京医科歯科大学医学部卒業,その後同大学小児科助手を経て,コロラド大学医学部NJC小児科リサーチフェロー,リサーチアソシエイトを務める。1998年,東京医科歯科大学医学部附属病院医療情報部教授。2000年,東京医科歯科大学大学院医療政策学講座研究開発学分野教授。また,同大学医学部附属病院院長補佐,大学院医療管理政策学コース担当教員のほか,最高裁判所司法修習委員会委員,東京地方裁判所医療機関,弁護士会および裁判所協議会幹事を併任し,司法研修所による判事補ならびに法務省刑事局による検事の医療機関研修を担当している。>>本文へ戻る

注2:カンファレンス鑑定
 医学部を有する東京都内の13大学のうち,当該訴訟に関連のない3施設をランダムに選び,当該疾患を日常診療している准教授,講師クラスの3人が鑑定人となり,裁判所や弁護士の同席のもとでカンファレンスを行い,鑑定結果を報告するシステム。現在,東京地裁医療集中部で運用されている。>>本文へ戻る
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 個人的な意見ですが、医療事故調査は、理性的な判断を行うところだと考えます。そこに遺族代表が入り込むのは奇妙ですし、医療のプロと法律のプロが考えるところであると考えます。
 飛行機事故や船舶事故でも同じで、個人責任ばかりを追求しても、再発防止につながらないので、「明確」に法的な訴追の場所ではないことを明記した場合のみ、ファンクションするかと思います。
 医療関連死の届出を義務化し、医療機関が届出しなければ罰するような仕組み自体がご無体な・・・という気がします。

 あくまで金銭的救済は法廷でも民事であって、刑事罰を行うと誰が進んで「ハイリスク」なことをするでしょうかね?というか、もしも報道の人が記事を書いていて、あとで間違っていたとして「新聞条例」とかで、ミスや誤報の都度、事故調査にかけられて、届出をしなかったら罰せられたら、自由な報道などできますか?そういう観点からも自分たちの筆が及ばないことがあるように、医療は完全なものじゃありません。ブラックジャックだって、失敗するように、医療はこの時代になっても結果は不確実です。処罰されるのは高度な違法性が高いものであり、ミスなどは民事にてその妥当性を法的に弁償するしかないのではないでしょうか?内科学会や外科学会、医師会などは大賛成なようですが、本当に現場に即しているのか?もう一度、見直す必要があると思っています。
ぽち

  なかのひと 



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刑事手続きとの関係6割が「懸念」

 

更新:2008/01/28   キャリアブレイン

 

 厚生労働省が今国会での法案提出を目指す医療事故の死因究明制度に関して、医療関係者の7割以上が制度の趣旨に賛意を示す一方、刑事手続きとの関係については6割以上が懸念していることが、日本病院団体協議会(日病協、議長=鮫島健・日本精神科病院協会会長)が実施した調査結果から分かった。

【関連記事】
四病協、死因究明制度に前向き

 調査は、昨年末から年明けにかけて、日病協の運営にかかわる幹部らを対象に実施。厚労省が創設を目指す死因究明制度の趣旨や新制度の骨格、刑事手続きとの関係などに関して賛否を聞き、194人分を集計した。

 その結果、新制度創設の趣旨に対しては全体の7割超にあたる148人が「賛成」と回答する一方、同制度と刑事手続きとの関係については62.3%(121人)が「反対」と答えた。「賛成」とする回答も22.2%(43人)あった。

 このほか医師や法曹関係者、患者・遺族の代弁者らが加わる「医療事故調査委員会」(仮称)が事故原因などを調査することには、全体の約半数にあたる100人が「賛成」と回答。また、調査委員会が再発防止を提言することには86%(167人)が賛成した。

 厚労省によれば、死因究明制度の創設は医療死亡事故の原因を究明し、再発防止につなげることが目的。医療事故による死亡が疑われるケースについては現在、医師法21条に基づき警察への届出が義務付けられているが、新制度創設後は調査委員会に事故を届け出る。調査委員会は事故原因などについて報告書をまとめ、再発防止策を提言する。

 死因究明制度をめぐっては、制度の創設自体には医療現場に前向きの受け止め方が多い。ただ自民党案では、事故が故意や「重大な過失」によるものと調査委員会がみなした場合などには警察に通報する方向を盛り込んだほか、報告書が刑事手続きに使用される可能性にも言及しており、この点には反発もある。

 今回の調査結果は、新制度と刑事手続きとの関係について病院団体の懸念が強いことを改めて裏付ける形になった。

 調査委員会のメンバー構成について「死因究明を重視するなら医師など医療関係者を中心にすべき」という意見もあり、日病協は厚労省などに働きかける方針。


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